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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)82号 判決 1997年6月12日

大阪府豊中市勝部二丁目一九番一号

控訴人(一審原告)

楠本ネオン株式会社

右代表者代表取締役

楠本丞

右訴訟代理人弁護士

関戸一考

大阪府池田市城南二丁目一番八号

被控訴人(一審被告)

豊能税務署長 芦田昭

右指定代理人

中牟田博章

石井洋一

内藤元子

奥光明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、平成五年三月八日付けでした控訴人の平成元年一一月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定は、いずれもこれを取り消す。

3  被控訴人が控訴人に対し、平成五年三月八日付けでした控訴人の平成二年一一月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定は、いずれもこれを取り消す。

4  被控訴人が控訴人に対し、平成五年三月八日付けでした控訴人の平成三年四月分ないし同年九月分及び同年一一月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税の各納税告知並びに不納付加算税の各賦課決定のうち、同年八月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税七万六六七一円を超える部分は、いずれもこれを取り消す。

5  被控訴人が控訴人に対し、平成五年三月八日付けでした控訴人の平成元年一一月分、平成二年一一月分、平成三年四月分ないし同年九月分及び同年一一月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税の各納税告知に係る源泉納税義務は、平成三年八月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税七万六六七一円を除いては存在しないことを確認する。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

(以下、控訴人を「原告」といい、被控訴人を「被告」という。その他の略称は、原判決のそれによる。)

第二事案の概要

原告の本訴請求の概要、争いのない事実及び争点についての当事者の主張は、原判決の事実及び理由中「第二 事案の概要」欄(二丁裏二行目から六丁表四行目まで)に記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、本件所得税の各納税告知及び不納付加算税の各賦課決定は、いずれも適法であり、原告の本訴請求は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり原判決を訂正等し、原告の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由中「第三 争点に対する判断」欄(六丁表五行目から一三丁裏五行目まで)に示されているとおりである。

【原判決の訂正等】

1 六丁表末行の「八ないし一二」を「八ないし一一」と改め、「四の一ないし三、」の次に「検甲一の一、二、四、一二及び一三、」を加える。

2 八丁表四行目の「中西秀夫」を「中西秀雄」と、八行目の「一八名」を「一七名」と、「六名」を「五名」と、同丁裏一行目の「中西秀夫」を「中西秀雄」と各改める。

3 九丁表八行目の「(甲四の一ないし一三の各一)」を「(甲四の一ないし一〇、一二及び一三の各一)」と、九行目の「前記三」を「前記(3)」と、末行の「アランタ等」を「アトランタ等」と、同丁裏五行目の「甲四の一ないし一三の各一)」を「(甲四の一ないし一〇、一二及び一三の各一)」と、六行目の「前記三ないし六」を「前記(3)ないし(6)」と各改める。

4 一〇丁裏六行目の「(甲六の二)」の次に「、原告代表者の平成八年六月四日付け陳述書(甲二四)」を加え、一一丁表三行目の「右各書面(甲一、甲六の一及び二)の記載内容」を「右各書面(甲一、甲六の一及び二)、陳述書(甲二四)の記載内容」と改める。

5 一三丁表末行の「かかる」から同丁裏一行目の「のみならず」までを「税務官庁の相談窓口職員が行なう税務相談は、具体的な課税処分を前提とするものではなく、専ら行政サービスの一環として納税者のため税法の解釈、運用又は申告手続等についてその相談に応ずるものであり、しかも、その相談結果は、担当職員のその場における判断の表示にすぎず、税務官庁の公式見解の表示ではないから、これがそのまま将来の具体的な課税処分の内容を拘束するということはできないし」と改める。

【原告の当審における補充主張に対する判断】

1 本件開発費について

(一) 原告は、本件開発費は、接待交際費等一〇種目程度の費用として原告の損金(経費)に算入されるべきものであるから、給与所得に該当しない旨、さらに敷延して、原告は極めて個人の自主性、主体性を重んじる会社であるうえ、その事業の性格上、各人の創意工夫を事業に生かす必要性が高いので、とりあえず各人がポケットマネーで費用を負担しておき、後日会社の全体的な経費負担を決めるという本件開発費のシステムを採用したものであり、一定期のミーティングにおいて、必要性、関連性を判断し、その結果、原告の業務遂行上必要かつ有効なものと判断された場合に限り、各人が実際に負担した額より多くない額を一定割合を目途に支払ってきた旨主張する。

(二) しかしながら、特定の支出が経費として認められるためには、その支出が事業の遂行に通常必要な費用であることが要求されるから、右認定のためには個別具体的な支出ごとに業務関連性、必要性が検討されるべきところ、各人の費用負担の事実を裏付け、かつ、右負担金額と業務との関連性、業務遂行上の必要性についての判断の正確性、合理性を基礎付ける的確な証拠、すなわち本件開発費が原告主張の各費用科目に該当するものとして支出された事実を認めさせる証拠の提出はないから、本件開発費を原告主張の各費用科目に該当するものと認定することはできない。

(三) しかるところ、所得税法二八条一項所定の給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、勤労者が勤労者たる地位に基づいて使用者から受ける給付がすべて含まれる(最高裁判所昭和五六年四月二四日第二小法廷判決・民集三五巻三号六七二頁参照)。また、ある給付が給与所得に該当するか否かは、給付の性格等を客観的に検討して、労務又は役務の対価と評価されるか否かにより判断すべきであって、受給者の認識、使途如何によりその認定に影響を及ぼすべきものではない(東京高等裁判所昭和五三年七月一八日判決・税務訴訟資料一〇二号一一〇頁参照)。

そして、これに、前示のとおり、本件開発費の支給額が実際に要した費用の額に応じて決められているのではなく、むしろ受給者が提案した企画の原告の業務に対する貢献度に重点をおいて決定されたものであること(原告代表者の原審供述)を併せ考慮すると、本件開発費が所得税法二八条一項所定の給与所得に該当することは明らかである。したがって、原告の右主張は採用できない。

2 本件雑手当について

(一) 原告は、平成三年一月の海外渡航の際、一行が同月五日成田空港を出発してシドニーに向かい、同月一三日シドニーから帰国したこと、同月一九日に一行から遅れて(シドニーから)帰国した原告代表者を除く全員が往復とも同じ航空機に搭乗していたことについて、航空券を購入するには一旦海外へ出て、そこから外貨建てで購入した方が格段に安いから、全員が一旦シドニーへ飛んだにすぎず、観光を目的とした団体旅行ではない旨主張する。

しかしながら、シドニーに渡航した後に、各人が他の国(前示の海外研修出張レポート〔甲四の一ないし一〇及び一二の各一〕記載の目的地)へ出国したことを認めさせる的確な証拠はなく、全員がシドニーから、しかも、原告代表者を除き同じ航空便で帰国していることに照らすと、原告の右主張は採用できない。

(二) 原告は、法人税法基本通達九-七-七には、業務の遂行上必要な海外渡航と認められないものの条件(<1>観光渡航の許可を得て行なう旅行、<2>旅行のあっせんを行なう者等が行なう団体旅行に応募してする旅行、<3>同業者団体その他これに準ずる団体が主催して行なう観光旅行で主として観光目的と認められるもの)が限定列挙されており、この形式的除外事由に該当しない旅行は原則として業務遂行上の必要性を肯定し得るところ、本件において原告の役員及び使用人が実施した研修の項目、例えば、顧客であるコカ・コーラ本社(アトランタ)製作室の見学、C. W. AやC. P. A事務所(ホノルル)でのアメリカ式経理処理方法の研修は、いずれも原告にとって業務遂行上の必要性があるものであることは明白である旨主張する。

しかしながら、右通達の趣旨とするところは、法人の役員又は使用人の海外渡航が法人の業務の遂行上必要なものであるか否かについては、その旅行の目的、旅行先、旅行経路、旅行期間等を総合勘案して実質的に判定するという立場に立ったうえで、右<1>ないし<3>の場合は、そのような判断をするまでもなく、原則として法人の業務の遂行上必要な海外渡航に該当しないことが明らかであるということを確認したにすぎないものであるから、原告主張の解釈は到底とり得ない。そして、原告は屋外広告用看板の製造等を目的とする会社であり(前示争いのない事実)、コカ・コーラの指定業者である(甲二二の一ないし六、二三の一ないし四)ところ、右営業目的等を考慮に入れるとしても、原判決別紙記載のとおり、原告が提出した海外研修出張レポート(甲四の一ないし一〇、一二及び一三の各一)は、そこに記載された訪問先(渡航先)と実際の訪問先(渡航先)等との間に食違いがあったりしてにわかに信用し難いものであるうえ、他に、原告が主張する海外研修の具体的内容を認定できる資料もないことを考慮すると、本件海外渡航を原告の業務遂行上必要なものであったと認めるのは困難である。結局、原告の右主張は採用できない。

二  以上の次第で、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 高山浩平 裁判官 長井浩一)

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